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岡山地方裁判所 平成元年(ワ)191号 判決

原告

平松進

ほか二名

被告

平和タクシー株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して、原告平松進に対し金一五六万九一三九円及び内金一四一九万九一三九円につき昭和六三年一二月一三日から、原告平松利枝に対し金一一万五六四〇円及び内金一〇万四六四〇円につき右同日からいずれも支払ずみまで年分の割合による金員を支払え。

二  原告株式会社クラフト備南の被告らに対する請求、原告平松進、同平松利枝の被告らに対するその余の各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち、原告平松進と被告らとの間に生じたものはこれを八分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告平松進の負担とし、原告平松利枝と被告らとの間に生じたものはこれを六分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告平松利枝の負担とし、原告株式会社クラフト備南と被告らとの間に生じたものは原告株式会社クラフト備南の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告らは連帯して、原告平松進(以下「原告進」という。)に対し金一一九七万九〇五三円及び内金一一一七万九〇五三円につき昭和六三年一二月一三日から、原告平松利枝(以下「原告利枝」という。)に対し金六一万五二八〇円及び内金五六万五二八〇円につき同日から、原告株式会社クラフト備南(以下「原告会社」という。)に対し金三二〇万円及び内金三〇〇万円につき右同日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告進が運転し、同原告の妻である原告利枝の同乗していた自動車(以下「原告車」という。)に被告平和タクシー株式会社(以下「被告会社」という。)のタクシーを運転していた被告野上が追突したことにより右原告両名が負傷したとして、右原告両名及び原告進が代表者である原告会社が、被告野上に対して民法七〇九条により、被告会社に対して自賠法三条、民法七一五条によりそれぞれ損害賠償を請求したものである。

一  争いのない事実等

1  交通事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年一二月一八日午前一〇時四〇分ころ

(二) 場所 岡山市久米一七〇―一

(三) 態様 原告進が普通貨物自動車を運転し、原告利枝を同乗させて信号待ちで停車中、被告会社が保有し、同被告の業務として被告野上が運転していた普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が原告車に追突した。

2  責任

被告会社はタクシー輸送を業とする者であり、被告野上は被告会社の従業員であつて、被告野上は民法七〇九条による、被告会社は自賠法三条、民法七一五条によるそれぞれ損害賠償責任がある。

3  損害の填補

原告進は、自賠責保険から後遺障害補償(一四級一〇号)として七五万円の支払を受けた。また、被告らは、治療費として、原告進に対し二五万二七〇〇円、原告利枝に対し四万七一六〇円の支払をした(以上につき争いがない。)。

4  原告進は、家具製造販売、建築等を業とする原告会社の代表取締役であり、原告利枝は原告進の妻である(原告進、同利枝各本人)。

二  争点

原告らの損害額

第三争点に対する判断

一  原告らの治療経過等

1  原告進の治療経過等

本件事故当時、原告進は被告車に追突された際の衝撃で前のめりになり、原告車の車体後部がわずかに凹損した。右事故直後、原告進は、現場に来た警察官に対し、身体に異常はない旨述べた。このため、当初、本件事故は物損として処理されていた。原告進は、本件事故当日、帰宅後に頭痛がしたため、自宅近くにある名越整形外科医院(以下「名越整形」という。)で受診した。右初診時、名越整形の医師は、原告進の頸部の圧痛、運動痛、運動制限、神経症状が軽度で加療が長期にわたる程の重症でないと判断し、頸部捻挫により五日間の加療を要する見込との診断をした。同医師としては、右初診後しばらくの間は、原告進が、数日あるいは十数日の間隔で来院してくる程度であつたことからも、原告進の症状が重いとは考えていなかつた。また、同医師は、原告進の頸椎の運動性は概ね良好で、とくに外傷によつて重症とすべき状態ではないと判断していた。原告進の頸椎には、退行性骨変化が進行し、両側とも第二ないし第六頸椎間の椎間孔の狭小化がみられ、この傾向は、原告進の年令と比較して相当強く現れており、頸椎後縦靱帯骨化の傾向もみられる。原告進は、昭和六一年二月中旬から同年七月末までの間、名越整形に比較的頻繁に通院しているが、その後は、同年一一月に三回、昭和六二年五月に一回、同年六月に三回通院しているだけである。右通院中の昭和六一年五月当時、原告進は、頸骨背の疼痛、偏頭痛、肩凝り、頸椎運動制限、左上肢しびれ感等を継続的に訴えており、右症状が労働により増悪すると訴えていた。また、同年九月当時も同様の症状を訴えていた。また、原告進は、名越整形に通院中の昭和六一年一二月二〇日と同月二一日の二日間、秋山長生整骨院に通院した。さらに、原告進は、昭和六二年六月四日から昭和六三年六月二五日までの間、頸椎椎間板障害との病名で竜操整形外科病院(以下「竜操整形」という。)に通院(実日数四四日)して治療を受け、その間の昭和六二年六月一七日から同月二九日までの間(一三日間)、同病院に入院して治療を受けた、右入通院治療中、原告進は、左上肢痛、左手のしびれ、頸痛を訴え、時折り頭痛を訴えていた。右入院期間中の治療は、温熱療法と首の牽引であつた。竜操整形の医師は、原告進の症状固定日を昭和六三年六月二五日と診断した。その後の原告進の症状は、一進一退である。原告進は、昭和八年八月一五日生まれである。

2  原告利枝の治療経過等

原告利枝は、原告車の助手席に同乗していたが、被告車に追突された衝撃で、原告利枝の身体が揺れた、本件事故直後、原告利枝は身体に異常を感じなかつたが、その当日、しばらくして左手がしびれるようになつたため、同日から昭和六一年三月六日までの間、小川神経科診療所に通院(実日数一一日)して治療を受けた。右初診時に小川神経科診療所は、外傷性頸部症候群により治療期間を一応五日間とするのと診断をした。右通院期間中、原告利枝は、右上腕知覚異常倦怠感、頭重、めまいを訴え、頸部腫脹、熱感、頸部圧痛があつた。右通院中の昭和六〇年一二月二〇日から昭和六一年一月一六日までの間、秋山長生整骨院に通院(実日数三日)した。小川神経科診療所では、原告利枝には後遺障害がないとの診断をしている。原告利枝は、昭和一三年二月二四日生まれである(甲一、二の1ないし4、三ないし七、一一の1、2、一二の1ないし44、一三の1、2、三〇、三四、三五、乙七ないし九、原告進、同利枝各本人、各調査嘱託、弁論の全趣旨)。

二  原告進の損害

1  治療費立替払分 八万九六円

原告進が自己の治療費の立替分として名越整形に二万二二八〇円、竜操整形に五五万一〇一〇円、秋山長生整骨院に六〇〇〇円(合計五七万九二九〇円)を支払つた(甲一一の1、2、一二の1ないし44、一三の1)のほか、被告らが右各病院等に合計二五万二七〇〇円を原告進の治療費として支払つた(争いがない。)のであるが、前記一で認定した本件事故の態様、原告車の損害の程度、本件事故直後における原告進の症状と診断書の治療期間、その後の症状及び治療経過、原告進の頸椎に関する素因、原告車の同乗者であつた原告利枝の症状を総合考慮すると、原告進の頸椎には、同人の年令と比較して相当強く退行性骨変化が進行し、頸椎間の椎間孔の狭小化がみられ、頸椎後縦靱帯骨化の傾向も存在していたところへ、本件事故による衝撃が加わつた結果、受けた衝撃の程度に比較して極めて長期間にわたる頑固な症状を呈するようになつたものと解されるから、本件事故と相当因果関係のある原告進の治療費としては、右合計額八三万一九九〇円の四割にあたる三三万二七九六円が相当である。そうすると、右金額から被告らの右支払額を控除した八万九六円を原告進の治療費立替払分として認容すべきである

2  入院雑費 五二〇〇円

前記一1で認定した原告進の入院期間、前記二1で判示したところによれば、入院雑費としては、五二〇〇円(一日あたり一〇〇〇円として一三日分の四割)が相当である。

3  通院交通費 四七八四円

名越整形は原告進の自宅から歩いて五分程度の場所にあり、秋山長生整骨院、竜操整形に通院する費用としては、少なくとも片道一三〇円を要した(甲一四、原告進本人、弁論の全趣旨)。そうすると、秋山長生整骨院(二日)、竜操整形(四四日)の通院日数と前記二1で判示したところを合わせ考慮すれば、通院交通費としては、四七八四円(一回あたり二六〇円として四六回分の四割)が相当である。

4  休業損害 三九万六二五四円

原告進の職業、年令等からすると、原告進は、本件事故当時、一か月三九万九一〇〇円の収入を得る高度の蓋然性があつた。また、原告進は、主に午前中に前記各病院等へ通院していた(原告進本人、弁論の全趣旨)。そうすると、休業損害の関係では、前記各病院等への通院(合計一二五日)については一日を〇・五日と評価すべきであり、これに入院日数一三日を加算し、一日あたりの収入金額一万三一二一円(右月収の一二か月分を三六五日で割つたもの)(円未満切捨て)に前記二1で判示したところを合わせ考慮すれば、休業損害としては三九万六二五四円(一万三一二一円の七五・五日分の四割)(円未満切捨て)が相当である。

5  逸失利益 六八万二八〇五円

前記一1で認定したところによれば、原告進の症状固定日は、昭和六三年六月二五日であると解され、原告進は右症状固定日から四日間(新ホフマン係数三・五六四三)にわたり一〇パーセントの労働能力を喪失したというべきであり、これに前記二1で判示したところを合わせ考慮すれば、逸失利益としては六八万二八〇五円(年収四七八万九二〇〇円に新ホフマン係数三・五六四三と労働能力喪失率一〇パーセントを適用し、これに四割を適用)(円未満切捨て)が相当である。

6  慰謝料 合計一〇〇万円

(一) 傷害慰謝料 四〇万円

前記一1、二1で認定判示したところによれば、傷害慰謝料としては四〇万円が相当である。

(二) 後遺障害慰謝料 六〇万円

前記一1、二1で認定判示したところによれば、後遺障害慰謝料としては六〇万円が相当である。

7  弁護士費用 一五万円

原告進の請求額、前記認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、弁護士費用としては一五万円が相当である。

8  損害の填補 七五万円

原告進は、自賠責保険から後遺障害補償として七五万円の支払を受けた(争いがない。)。

三  原告利枝の損害

1  治療費立替払分 九〇〇〇円

原告利枝は、自己の治療費として秋山長生整骨院に対し、被告らの支払とは別に、九〇〇〇円を支払つた(甲一三の2、原告利枝本人)。

2  通院交通費 三六四〇円

原告利枝は、本件事故による治療のため、秋山長生整骨院(三日)、小川神経科診療所(一一日)に通院したが、右各医院に通院する費用として、少なくとも片道一三〇円を要した(原告利枝本人、弁論の全趣旨)。そうすると、通院交通費としては、三六四〇円(一回あたり二六〇円として一四回分)が相当である。

3  休業損害 四万二〇〇〇円

原告利枝の職業、年令等からすると、本件事故当時、一か月一八万二五〇〇円の収入を得る高度の蓋然性があつた。休業損害の関係では、前記各医院が岡山市内にあることからすると、右各医院への通院(合計一四日)については一日を〇・五日と評価すべきであり、休業損害としては一日あたりの収入金額六〇〇〇円(右月収の一二か月分を三六五日で割つたもの)の七日分である四万二〇〇〇円が相当である。

4  傷害慰謝料 五万円

前記一2で認定したところによれば、傷害慰謝料としては五万円が相当である。

5  弁護士費用 一万一〇〇〇円

原告利枝の請求額、前記認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、弁護士費用としては一万一〇〇〇円が相当である。

四  原告会社の損害

原告会社は、昭和四九年七月三〇日に設立され、原告進がその経営全般を行う同原告の個人会社である。本件事故当時、原告会社の日常の業務は、原告進、同利枝と従業員二、三人で行つていた。原告会社は、設立当初から、主に家具の製造販売を業としていたが、本件事故の二、三年前から赤字を計上しており、原告進としては、原告会社の事業内容を婦人服を主とする服飾関係へ転換しようと考え、本件事故当時、原告進や同利枝が婦人服のデザインを考え、その縫製を下請に出して試作品を製作していた段階であつた。原告進は、原告会社が所有する不動産を売却して、右事業転換に要する資金に充てようと考えており、昭和六二年ころに右不動産を売却した。原告会社の経営は、昭和六三年ころから黒字になつた(甲八、一六の1ないし4、一七ないし二〇、二一の1、2、二二の1、2、二三ないし二六、二九の1ないし7、原告進、同利枝各本人)。

右認定事実及び前記一1で認定したところによれば、原告進の個人会社である原告会社の事業転換が、本件事故に基づく原告進の治療及び体調が万全でないことによつてある程度の制限を受けた面のあることは窺えるものの、原告進の右状態によつて原告会社の事業転換が著しく困難になつたとまでは認められないうえ、婦人服関係は、景気動向、流行に左右される要素が強く、しかも、本件事故の二、三年前から本件事故の二、三年後までの間にわたつて原告会社が赤字を計上していたことからすると、原告進の右状態に基づいて原告会社の収益に具体的な影響が生じたとまで認めることはできない。そうすると、原告会社の営業損害に基づく請求は理由がなく、右営業損害を前提とする弁護士費用に関する請求も理由がない。

五  以上によれば、原告進の請求は、一五六万九一三九円と内金一四一万九一三九円(弁護士費用を控除したもの)につき本件事故発生後である昭和六三年一二月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告利枝の請求は、一一万五六四〇円と内金一〇万四六四〇円(弁護士費用を控除したもの)につき右同日から支払ずみまで右割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 安原清蔵)

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